教員紹介

国際文化学部教員コラム vol.21

2010.03.25 英語文化学科 島村 宣男

ミルトンの影III

イタリア再訪の話を続けましょう。

 

西暦1738年、イタリア遊学の旅に出た青年詩人ミルトンが、地動説を唱えて
軟禁生活を余儀なくされた晩年のガリレオに面談を求めたのは有名な話です。
ミルトンの傑作叙事詩 Paradise Lost ――日本でも明治期以来、『失楽園』
の翻訳タイトルで有名――に、次のような一節があります。地獄 (Hell) の
「燃え立つ深淵」(the fiery gulf) から立ち上ったサタン (Satan) の巨大な
双肩には、丸く大きな「重々しい盾」(the ponderous shield) が懸かって
いますが、その様子は叙事詩に相応しいスケールで天球の「月」に喩えられ、
「近代天文学の父」への言及がみられます。

 

……the broad circumference
Hung on his shoulders like the moon, whose orb
Through optic glass the Tuscan artist views
At evening from the top of Fesole,
Or in Valdarno, to descry new lands,
Rivers or mountains in her spotty globe.
――Paradise Lost , I. 286-291
〔…その広大な円形をした盾は/天空の月の如く両の肩に
懸かっていた。/かのトスカナの科学者が望遠鏡を用いて/
その斑点のある球体に新しい陸地か、/川か、あるいは山を
発見しようと/陽が落ちたフィエゾレの山の頂から、/
またヴァルダルノから眺める、あの月の表面にも似ていた。〕

 

ピサの斜塔

 

このとき、老いた「トスカナの科学者」は完全な失明状態にありました。
やがてイギリス革命に挺身する青年詩人が感得したのは、「不服従の精神」
であったかもしれません。それにしてもこのミルトン、15年後に自分自身も光
を失うことになるとは、予想だにしなかったことでしょう。とはいえ、両者ともに
頑固一徹、曲がったことが大嫌い、苛酷な運命をものともしませんでした。

 

ところで、ガリレオと縁のある「ピサの斜塔」(Torre Pendente)、聞くと見るとは
大違い、実は非常に危なっかしく傾いでいるのには一驚しました(写真上)。
そこで、真っ直ぐなのが好きな私、ちょっと「修復」してみました(写真下)。

 

ピサの斜塔(「修復」後)

 

嗚呼、イタリアの空の青はいつも美しい …

 

(英語英米文学科 島村宣男)

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