2010.04.01.
英語文化学科島村 宣男

ミルトンの影IV

英語に “See Naples and die.” という常套句があります。「ナポリを見て死ね」、
つまり「ナポリを見るまでは死ねない」という意味内容、イタリア半島南部は景勝で
鳴るナポリの美しさを賞讃するものと言ってよいでしょう(日本語にも「日光見ぬうちは
結構と言うな」という類似の表現がありますが、こちらは、〔ニッコウ〕と〔ケッコウ〕
との押韻 (rhyme) がご愛嬌)。現在の港湾都市ナポリ (It. Napoli) は、紀元前
600年頃に古代ギリシア人によって発見され、「ネアポリス」(新都市)がその地名
の語源とされていますが、前4世紀には早くも古代ローマ人によって征服されてい
ます。先の英語表現は、近代に入ってナポリがフランスはブルボン王家の支配下
にあった「黄金期」に由来するもののようです。

ナポリからフェリーに乗船して約1時間半、ローマ帝国の皇帝たちがこよなく愛して
別荘まで築いたという麗しい小島があります。これがカプリ島 (It. Capri) です。
モーターボートで30分ほど周回すると、かの「青の洞窟」(It. Grotta Azzurra) が
私たちを迎えてくれます。地元の船頭さんが漕ぐ小舟に乗り換えてもぐるこの洞窟、
私が無事に入れたのは非常に幸運であった、としか言いようがありません。
なにしろ、時間をかけて現場に着いても、入洞の可能性は寄せくる海波のご機嫌待ち、
季節どころか、時間ごとの変化のために入れないことも珍しくなく(二度訪れて、
二度とも入れなかったという人の話を聞いたことがあります)、そのうえ、数日前に
不届き者が異臭を放つ物質を洞内に散布したという事件が発生し、警察当局による
現場検証のために前日まで入洞禁止だったというのです。

眩いばかりの外光の屈折作用が洞内の海水に及んで、暗黒の小世界に美しくも
神秘的な光景を生み出しています。ボートに仰向けに横たわり、身を縮めて入洞した
夢時間は僅か数分、瞬時の感動を不安定な体勢のままカメラに収めるのはまさに
至難の業です。このショットも、現像してみるまでは自信がありませんでしたが、
ご覧のような出来映えとなりました。

Grotta Azzurra の神秘(Aug.27, 2009) © Nobuo Shimamura

旅程の関係で、古代遺跡で有名なポンペイ (It. Pompei) を訪れることはできません
でしたが、カプリ島からの帰途、穏やかなナポリ湾の彼方に霞むヴェスヴィオ火山
(It. Vesuvio) を望みながら、私は爽やかな潮風に身を委ねたのでした。

(英語英米文学科 島村宣男)