教員紹介

国際文化学部教員コラム vol.77

2012.07.13 英語文化学科 萩原 美津

「KATAGAMI Style展」訪問記・《後編》

 1875年にロンドンのリージェント・ストリートにオープンしたリバティ商会は、1884年から表面装飾用のステンシルとして KATAGAMI の販売を始めます。展示中の同社の商品カタログにあった “Japanese storks”(鷺)のステンシルは、翼を広げた柄と佇む柄の二つから選べ、サイズも大中小の三種類、取り揃えてあります。イギリスの人々の暮らしに日本の「型紙」デザインが、いかに溶け込んでいたかを示す一例でしょう。
展示はイギリスから、アメリカ、フランス、オーストリア、ドイツ、ベルギー、スコットランドなどへと展開していき、壁紙、カーテン、カーペットなどのテキスタイル。椅子や机、ランプ、キャビネットなどの家具や調度品。食器や衣服、アクセサリーなど、ありとあらゆるものに日本の「型紙」デザインの影響があったことを示しています。
19世紀末にフランスを中心にヨーロッパで大流行した「アール・ヌーヴォー」が、日本の伝統工芸文化の強い影響のもとに生まれたものであることを、この展覧会で実感できたことも、大きな収穫でした。流れるような曲線のアール・ヌーヴォー様式からは、日本の伝統的な図柄である「波」「流水」「菊の花弁」といった様々な自然のモチーフが連想されます。
〈上は、ペルシャ絨毯がかかるリバティの吹き抜け〉                           〈オリエンタルなリバティプリント・グッズ〉

1876年にフィラデルフィア万博に出品され、欧米で絶賛された輸出陶磁器の「眞葛焼」が横浜に、しかも私の地元のすぐそばにあったという事実を、つい最近になって知りました。

☆☆宮川香山眞葛ミュージアムのHPはこちら
http://kozan-makuzu.com/

実際に眞葛焼を目にすると、なるほど、アール・ヌーヴォーのルーツを宮川香山に認める人がいるのも頷けます。
美しい曲線が紡ぎだす菊や蓮、藤などの花々、生き生きとした表情の鷹や雀、雁などの鳥、色とりどりに舞い飛ぶ蝶々。眞葛・香山の世界にはアール・ヌーヴォーへの兆しが確かに感じられるからです。アール・ヌーヴォーの産みの親とも言われる美術商ジークフリート・ビングが、その名も「Art Nouveau」というギャラリー・ショップをパリにオープンしたのは1895年のこと。その店で取り扱われていたのは日本の美術品だったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界に愛されたやきものMAKUZU WARE眞葛焼・初代宮川香山作品集』(山本博士、神奈川新聞社、2010)と「宮川香山・眞葛ミュージアム」のチラシ〉

 

 

〈『ナンシー派美術館所蔵作品集』Somogy éditions d\’art, 2009〉

 

KATAGAMI Style展は、また、これまで私が興味を抱いてきた多くのものの背景に、日本の「型紙」文化の存在があったことも気づかせてくれました。中学時代、江ノ島の近くで何気なく入ったルネ・ラリックの香水瓶博物館。アメリカ東海岸から西海岸まで―ペンシルバニア、ワシントンDC、NY、サンフランシスコ―尋ね歩いたフランク・ロイド・ライトの建築物。ライトの落水荘(Falling Water)にあったティファニー製のランプ・スタンド。ロンドンに行くと買い物をしなくても足を運んでしまう老舗デパート、リバティ。そのリバティも採用しているウィリアム・モリスのデザイン。これらのものに私が魅了されてきたのは、そこに日本の「型紙」文化の影響を無意識に見ていたからであり、これらのものを通して、日本を再発見していたのだということが分かったのです。
こんなことを考えつつ、最後の展示コーナー「現代に受け継がれる “KATAGAMI” デザイン」に辿り着いたとき、思わず “エッ?” と声をあげてしまいました。普段、関東学院大学の研究室で愛用しているマグカップが、思いがけず目にとびこんできたからです。イギリスのノッティンガム大学に留学中に購入し、かれこれ17、18年も使っているでしょうか。ミントンやウェッジウッドなどの英国高級ボーンチャイナではなく、形も柄もいたって庶民的なカップに私がこれまで愛着を持ってきたのは、日本の「小紋」の影を見ていたからなのでしょう。
明治維新以降、イギリスを始めとする欧米各国を手本として文明開化を進めてきた日本が、欧米の芸術文化に計り知れない影響を与えてきたことに、日本人は無頓着すぎるのではないか。そんなことを肌で感じた展覧会でした。

 

〈バーリーのロングセラー・ブルー・キャリコのマグカップ、ティー・セット〉(1968年デザイン)。

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