教員紹介

国際文化学部教員コラム vol.131

2015.03.31 比較文化学科 佐藤佑治

随想―日中関係について

近年の両国のゆき詰まった関係を考えてみた。現在のゆき詰まりの直接のきっかけは、2012年9月10日の野田首相による「尖閣諸島」(中国側の「釣魚島およびその付属島嶼(とうしょ)」)国有化宣言であった。
 
 中国側の態度硬化の原因についていうと、一つは、1972年の国交正常化時に、この問題について「棚上げ」の合意があったとする中国側からすると、日本側の一方的な合意の破棄になること、もう一つは、発表前日、ロシアのウラジオストクで開催されていたAPEC後の廊下の「立ち話」で、胡錦濤国家主席が野田首相に慎重な対応を求めていたその翌日に、国有化宣言がなされ胡主席の面子が丸つぶれになったこと・・・があった。
 
 両国間には、「尖閣」問題のほかにも、教科書問題、靖国神社参拝問題などがあり、これまでも時々困難な時期に陥ったことがあったが、今回の状況はこれまでで一番大きな規模のものとなっている。
 
 両国政府のこの間のやり取りを見ていて、あらためて日中関係の難しさを実感させられている。しかし私はこの事態をそれほど悲観的には見ていない。国有化宣言から2年半がたった今、歩みは遅いが歩み寄りの動きがみられる。習近平主席の渋っ面で日本での評判は散々だが、曲がりなりにも両国首脳が「会見」したという事実、これまた「爆買い」などといわれ評判が悪いが、最近の中国旅行者の増加、多くの留学生の存在などなどを考えると少しは希望が持てる。
 
 これまで毎年9月、一年おきに提携校がある北京と南京に学生と行っており、関係が悪い時期も欠かしていない(親御さんが心配された時にも)。なぜか。日本のテレビで繰り返し、繰り返し、繰り返し中国の反日デモを映しているので、それを見た日本人は中国中が反日の嵐の中にあると思い込むのであって、実際中国に行ってみるとそんなすさまじいことにはなっていず(デモがないということではない)、学生たちはテレビ画面とは違う日常生活が流れる光景に戸惑いを覚えていた。(ちなみに逆も同じで、中国のテレビでは同じ時期、繰り返し日本のナショナリストや右翼のデモを映して、中国人の多くはまるで日本中が反中の嵐のなかと思っていた。)マスコミとりわけテレビの報道については両国間の関係がよくないときには一層よくよく注意が必要と思う。
 
 どうしたらよいのだろうか。両国の人が「ごくごく普通に」相手のことを考える・・・ということに尽きると思う。どちらにも善人・悪人、右翼・左翼、保守・革新、金持ち・貧乏人がいる。われわれ人間は、ともすると「中国人は・・・」とか「日本人は・・・」とかいってとかく相手を無意識のうちに「自分の価値観」で評価しがちである。その価値観を相対化する必要がある。平たく言えば相手の立場になって考えてみるということである。なんだそんなことあたりまえじゃないかという人がいるかもしれないが、このこと実際には思いのほかなかなか難しいのです。
 
 これまで多くの中国の学生、中国の留学生にあってきた。優秀な人、それなりの人などさまざまであったが、私は概して好印象を持っている。
 
 最後に私が体験した中国の「善人」の二つの例を紹介しよう。
 
一つ目。北京の地下鉄で私(当時60代後半)が立っていると、座っていた(この人はなんと荷物を二つも膝に抱えていた)中年女性(私の娘ぐらいの年頃)が席を譲ってくれたのである。しばしのやりとりのあと私はありがたく座らせていただいた。かの女性は、荷物を両方の手に持ってさも満足そうに私にほほえみかけたのである。
 
 二つ目。南京のバスに乗っていて、停留所に到着すると前方にタクシーが止まりその運転手が降りてきて、バスの運転手に猛然と抗議をしてきた。(私の語学力では子細にはつかめなかったが、どうやら無理な割り込みをバスがして危ないじゃないかということらしい)そのうち、両方が熱くなりバスの運転手が降りて路上でのやり取りになったとき、バスの乗客、停留場にいた乗客(日中の空いた時間なので多くは年配者)が、「みんなで」両者をわけに入ったのである。年配者の取り計らいで両者は少しずつ落ち着き、最後は別れてそれぞれ車に戻り悶着にけりがついた。
 
 ともに同じことは、「今の」日本の都会では(おそらく田舎でも)まずおこらないだろう。時々中国で私はこの種の体験をしている。中国に来て特に感じ入る時である。そうした中国との関係発展のためにこれからも微力ながら努めてゆきたい。
 
 
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