2024.07.09.
英語文化学科大橋 一人

ことば通りではないことばの意味

いきなりですが、次の空欄1~5に共通する漢字一文字を入れてください。

1. ビンの(   )  2. (   )に合う  3. (   )を出す  4. (   )が過ぎる  5. (   )がすべる

答えは ( 口[クチ] )です。ほかにも「口をはさむ」や「大きな口をたたく」、「あいた口がふさがらない」や「口が重い」など、「口」という語を使った慣用表現はいくらでもあります。試しにみなさんも「口」という語を使ってなにか表現を考えてみてください。一つや二つ、すぐに思いつくのではないでしょうか。

では、国語辞典の「口」の定義である「人間や動物が飲食物を取り入れ、音声を発する所」、つまり、このイラストそのものを表しているのは1~5のうちどれでしょうか。

答えは、1~5の中には「口」そのものを表している表現は一つもありません。その証拠に、1~5の中で日本語の「口」に対応するmouthを使って英語で言い表せそうなものは1だけで(the mouth of a bottle)、その1でさえ、イラストのような「口」そのものを表しているわけではありません。

もちろん、1~5の意味はすべて文字通りの「口」と関係していることは確かです。ビンの「口」はビンに液体が入るところなので、食べ物や飲み物を体内に取り入れる本来の「口」の働きと似ていますし、2も飲食物の好みをそれが入る場所である「口」を用いて表現しています。また、3~5の慣用表現はすべて口が「ことば」を意味していて、ことばを発する場所である「口」が意味の広がりの原点となっています。

このように、普段何気なく使っている語の中に、時の流れとともに次第に元の意味から離れ、さまざまな意味で使われるようになっているものはたくさんあります。試しに手元の英和中辞典でhandを引いてみると7つある意味のうち、「(人や動物の)手」という本来の意味が載っているのは最初の1項目だけで、あとの6項目はそこから離れ、広がっていった先の別の意味が載っています。

「ことば通りの意味」の習得から次第に「ことば通りではない意味」の習得に向かうのは母国語でも外国語でも同じです。単語を覚えるときには、まずことば通りの意味を覚えなくてはいけませんが、その先に「ことば通りではない意味」の世界があることを意識しておくと、少しずつ大人の言葉遣いが身についていきます。一つの英単語にいくつもの意味がある時は、それぞれの意味がどんなふうに広がっていったのかに思いをめぐらせてみると、思わぬ発見があるかもしれません。