教員紹介

国際文化学部教員コラム vol.144

2015.11.06 英語文化学科 安藤 潔

三本のネクタイの思い出

 初めて教壇に立ってもう40年以上になるが、それに先立つ数年前、大学4年にして教育実習で母校の高校に行ったとき、実習生男子のGパン、女子のノースリーブはだめと言われたのを思い出す。それ以来今日まで、授業のときにジーンズをはいたことは一度もない。最近は五月頃からクール・ビズとやらでノーネクタイの軽装が許されるようになったが、どうもしっくりしない。やはりネクタイを締めて上着を着て心構えも引き締まるというものだろう。秋以降入梅頃まで我慢できる限りはきちんとした服装でいたいものである。
 
 そのネクタイだが、手元にある普段使いの10本ほどのうち、特に思い出深い贈り物としてもらったものなど三本がある。その由縁を語ろうと思う。
 
 まず一本目は臙脂色の落ち着いた印象のネクタイ。紳士服量販店でも売っている物でたいした品質ではないが、紺系のスーツにも茶系のジャケットにも合うのでよく使っている。これは実は、数年前の卒業生が4年生の最後のゼミの時に色紙や花束と共に贈ってくれたもので、三種類もの贈り物に驚きつつも感激したことを思い出す。
 
 二本目も臙脂系だが赤に近く、さらに水玉模様の入ったやや派手なネクタイなので、あまりしょっちゅうは使わない。以前これを締めて出講したとき、アメリカ人の某先生からわたしにしては結構flashyだといわれたことがある。いつもの地味すぎる服装に比べるとおしゃれだというほめ言葉ととった。これは実はずっと昔イギリス人の同僚から何かのお礼にいただいたもので、ラベルを見るとNorfolkという地名が入っていて、英国製のようである。ただし締めた感じは国産ものとほとんど変わらない。これを贈ってくれた英国人は私よりかなり年上の同僚であったが、もう十年以上前に亡くなり、この世の人ではない。
 
写真1(400)
Lake Louise, Alberta, Canada 著者30代の頃
 
 最後の一本は茶系の植物のような模様の入ったネクタイで、実は暫く前に岳父が亡くなった後の形見分けとして貰ったものである。やや細身の薄い生地で、どことなく手触りが、数十年前に数回カナダの語学研修の引率をした時、時間を見てバンクーバのイートンで買ったネクタイに似ていると思った。裏地にヨーロッパのブランド名が入っているが、少しシミもある。それほどいいものとは思えないが、色合いが地味で当たり障りがないので時々使っている。ある時裏のラベルにsilk/soie とあるのに気づき、引っ張り出すとドル表示の価格まで付いていた。そこではっと思いついた。これは実は1980年代の頃、初めてカナダに行った時、自分用と一緒に岳父のためにお土産に買ったものだ。あの時、北米本土には初めて行ったので、親族にそれぞれ小さな贈り物をしたのだった。既に亡くなっていた実母には何も贈れなかったが、義母や義妹にも安っぽい装飾品の贈り物を買ったので、同行の外国慣れした女性の同僚には失笑されたようだ。
 
 その後、義母に会ったとき、「この前いただいた形見のネクタイは、ずっと前私自身がお義父さんにお贈りしたものでしたね。」と言うと、「はい、お父さんたいそう喜んでよく締めて出かけたものです。」という答えだった。数十年前、初めて行った北米大陸で岳父のために免税店で買ったお土産のネクタイは、結局自分の手元に戻ってきたのだった。
 
 
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