2009.08.09.
比較文化学科長谷川 善一

世界の無形文化遺産の保護

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)では世界の文化遺産及び
自然遺産を登録しその保護を推進しています。
現在、世界で約850件が選定・登録されており、わが国からは14件
(文化遺産11件、自然遺産3件)が登録されています。
これとならんで、ユネスコでは世界各地に現存する伝統的な芸能、
口承による神話や歴史の伝達などの文化遺産の保護をめざして
「人類の口承及び無形遺産の傑作宣言」の事業を行い、
2005年までに世界で90件が選ばれて、傑作として宣言されました。
日本からは、「能楽」「人形浄瑠璃文楽」「歌舞伎」の3件が選ばれています。

能・翁

筆者は、この選定を行う国際審査委員会の委員のひとりとして
2003年と05年の2回にわたりパリのユネスコ本部で開かれた会議に
出席しました。
会議では、各国から招かれた18人の委員によって、一週間にわたって、
1件ごとに、関係国によって編集されたビデオを見ながら、
資料や関係団体による事前の評価などに基づいて討議が続けられました。

文楽人形

この会議を通じて、筆者は、アジア地域には長い伝統をもつ
洗練された演劇、音曲、舞踊や口承文学等が数多く継承されており、
これは世界の他の地域には例を見ないものだということを改めて
認識させられました。
インドのヴェーダ、インドネシアの人形劇、中国の伝統演劇など28件が
アジア地域から選ばれています。
2006年に発効した「無形文化遺産条約」によって、これらの90件は
「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に統合・記載されることが
08年の暮に決まりました。

歌舞伎(浮世絵, 道成寺)

会議での議論を通じて、文化遺産を保護し、後世に伝えることの大切さと、
他の国々の遺産を鑑賞し尊重することを通じて人々の相互理解を深めること
の重要さを痛感しました。

(写真提供:日本芸術文化振興会。
日本の伝統芸能については同会のデジタルライブラリー
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/ )で楽しめます。)

(比較文化学科 長谷川善一)