2010.08.05.
英語文化学科安藤 潔

シェイクスピアの楽しみ<後編>

以前、別の大学に勤めていたころ、文学や教養よりも実用語学という流れが主流になり、専門として英文学一筋だった私は苦境に立ち、悩んだことがあります。そんな状況でもなおもシェイクスピアのテキストを眺め、また映画版や上演版ヴィデオを学生とともに鑑賞していました。こうして楽な方法でシェイクスピアに接してきましたが、学生たちがどのくらい理解してくれたかはよくわかりません。ただ多くの受講生が、異口同音に「先生がシェイクスピアを大好きだということだけは良くわかりました。」と言っていました。専門がイギリス・ロマン派の私にとっては複雑な気持ちですが、少なくとも彼ら彼女らはシェイクスピアを尊重する意識を持ったと思います。

イギリスのITCL劇団による『オセロー』(2010)のワンシーン

かつてシェイクスピア生誕の地、ストラットフォード・アポン・エイヴォンでも『リア王』他を観た私です。あのころ、学生たちと改めてある舞台版ヴィデオを観て『リア王』を悲劇の究極と感じ、思わぬ深い感動に襲われる経験をしました。人生にこれほどの悲劇があるだろうかと。その瞬間、文学を教える機会に恵まれない自分の悩みが、いかにちっぽけなものかと気付きました。この世には『リア王』ほどの悲劇の究極があるのに、自分の悲劇が何と軽いものかと。その瞬間私の悩みはふっと抜けていきました。その時理解できたのです。こうして、シェイクスピアを観る人は自分の人生の苦境に立ち向かう勇気を得るのだと。

その後本学で英詩を講ずる機会を与えられ、私の悩みは解消しました。こんどは、学生の皆さんに英詩がいかにすばらしいものか、なかなか伝わらないのが悩みの種になってきました。これも自分がいかに英詩を愛しているかを示すことで何とかなるのではと思います。
今後もシェイクスピアの劇を観ることを楽しみにしています。音楽の場合と同様、感動したときには率直に、役者とシェイクスピアの両方に「ブラヴォー」の賛辞を贈りたいと思っています。

最近の代表的シェイクスピア全集、
いわゆる『RSC版全集』2007年刊ラッパー
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーは
シェイクスピアの生誕地ストラットフォード・アポン・
エイヴォンにある記念劇場を本拠地としている。

(英語英米文学科 安藤 潔)