イギリス近現代史を研究する際に主に私が利用している文書館を中心に、「わたしの作業場」と題して皆さんに紹介してきたこのシリーズも今回が最終回となります。
これまでは、外交文書を中心に保管する国立文書館と、王室に残る書簡や日記類を保管する王室文書館についてお話ししてきましたが、三回目はある美術館を紹介しましょう。
美術史専攻でない私の研究にとって「美術館」が史料収集の作業場になるのでしょうか?
ロンドンの中央部トラファルガー広場は、ネルソン提督の円柱像を中心にライオンの銅像でも有名ですが、その広場に面したところに国立美術館(National Gallery)があります。ルネサンスの巨匠から印象派の作品まで数々の名画を展示していますが、その左隣にひっそりとたたずんでいる小さめの美術館、それが今回紹介する「国立肖像画美術館(NationalPortrait Gallery)」なのです。
その名の通り肖像画しか飾ってありません。しかも描かれているのはイギリス人だけ。ただし古代イングランドの国王たちからザ・ビートルズやベッカムに至るまで、これまでのイギリスの歴史のなかで活躍してきた人物およそ2万人の肖像画を保有しています。
イギリス人の「伝記好き」はよく知られています。皆さんもロンドンの大きな書店などに行かれたら、必ずワンフロアすべてが伝記だけのコーナーというのに出くわすでしょう。
世界最大の人名辞典『オックスフォード国民大人名辞典』(全60巻、2004年刊)にも、この美術館所蔵の肖像画や写真がふんだんに使われており、2400年にわたるイギリス史で活躍した5万人もの人物たちの物語が収録されています(なお、こちらの人名辞典は、関東学院大学図書館の金沢文庫分館にありますので、是非ご覧ください!)。
イギリスの歴史を探究している私にとりまして、この美術館は研究対象たちと語り合うまぎれもない「作業場」なのです。
皆さんもロンドンに行かれたら是非訪れてみてください。美術館のサイトは以下の通りです。
http://www.npg.org.uk/