2009.06.18.
比較文化学科森島 牧人

ニューヨークの路地裏から

毎夏行われる森島ゼミナール「アメリカ文化調査」での楽しみは、
その中に多くの出会いがあることです。
特にニューヨークは宝の山です。少し紹介しましょう。

(NYのブルーノートにて)

奴隷であった黒人たちにより全米に広げられたゴスペルに
「アメージング・グレース」があります。
この曲はE.プレスリーが歌いグラミー賞を受賞したことにより、
全世界でもっとも愛される魂の調べとなりました。
しかしこの歌詞を書いた人物が、実はもと奴隷船の船長であったと知ったら、
この賛美歌を全米に広げた黒人たちはおろか、多くの人々はさぞかし驚くことでしょう。

彼の名前は、ジョン・ニュートン。
航海の途中嵐に遭い難破しかけた彼は必死に神に祈り、一命を取り留めた時、
神に感謝すると共に過去の自分を悔い改め、その後なんと牧師になったのです。
「なんと大きな恵だろう、こんな卑劣漢(wretch)の私をも救って下さった」
とは、その時の彼の想いが込められています。

(アップライトベースプレイヤーのロン・カーター氏と)

しかしなぜこの賛美を奴隷であった黒人たちが愛したのでしょう。
この歌詞に出てくる”wretch”には、もう一つの意味がありました。
それは「哀れな人」という意味です。
つまり彼らは、自分たちの境遇からその詩の中にある”wretch”に
異なるメッセージを読み取り、
「こんな哀れな自分でも救われる」と歌うことにより、
この賛美を自分たちの魂の歌にしていったのです。

(比較文化学科 森島牧人)

(ハーレムにて)

※写真のロン・カーター(Ron Carter)氏のプロフィール
アメリカのジャズ・ミュージシャン。日本でも非常に人気の高いジャズベーシスト。
過去1980年代には日本のCMにも出演している。
2004年にバークリー音楽大学で名誉博士号を授与。
現在はニューヨーク市立大学シティカレッジの教授でもある。