毎夏行われる森島ゼミナール「アメリカ文化調査」での楽しみは、
その中に多くの出会いがあることです。
特にニューヨークは宝の山です。少し紹介しましょう。
(NYのブルーノートにて)
奴隷であった黒人たちにより全米に広げられたゴスペルに
「アメージング・グレース」があります。
この曲はE.プレスリーが歌いグラミー賞を受賞したことにより、
全世界でもっとも愛される魂の調べとなりました。
しかしこの歌詞を書いた人物が、実はもと奴隷船の船長であったと知ったら、
この賛美歌を全米に広げた黒人たちはおろか、多くの人々はさぞかし驚くことでしょう。
彼の名前は、ジョン・ニュートン。
航海の途中嵐に遭い難破しかけた彼は必死に神に祈り、一命を取り留めた時、
神に感謝すると共に過去の自分を悔い改め、その後なんと牧師になったのです。
「なんと大きな恵だろう、こんな卑劣漢(wretch)の私をも救って下さった」
とは、その時の彼の想いが込められています。
(アップライトベースプレイヤーのロン・カーター氏と)
しかしなぜこの賛美を奴隷であった黒人たちが愛したのでしょう。
この歌詞に出てくる”wretch”には、もう一つの意味がありました。
それは「哀れな人」という意味です。
つまり彼らは、自分たちの境遇からその詩の中にある”wretch”に
異なるメッセージを読み取り、
「こんな哀れな自分でも救われる」と歌うことにより、
この賛美を自分たちの魂の歌にしていったのです。
(比較文化学科 森島牧人)
(ハーレムにて)
※写真のロン・カーター(Ron Carter)氏のプロフィール
アメリカのジャズ・ミュージシャン。日本でも非常に人気の高いジャズベーシスト。
過去1980年代には日本のCMにも出演している。
2004年にバークリー音楽大学で名誉博士号を授与。
現在はニューヨーク市立大学シティカレッジの教授でもある。