授業で『不思議の国のアリス』(Alice’s Adventures in Wonderland)を読んでいます。この作品はいろいろな言葉遊びが散りばめられていることでも有名です。しかし、日本語に翻訳されたものを読んでみても、いまひとつピンとこない、という経験をされた方もいるのではないでしょうか。そんなときは、英語の原文と読み比べてみると、アリス本の面白さを伝えたいという翻訳者それぞれの熱意や工夫が見えてくるように思います。例えば、アリスがウサギ穴の中に落ちていく場面で繰り返し出てくる“Down, down, down”という表現は、翻訳者たちによってどのような日本語にされているでしょうか。「そんな英語なんて簡単!『下へ、下へ、下へ』に決まってる!」と思われたとしたら、それは違います。もちろん、「下へ、下へ、下へ」と訳している翻訳者もいます。でもそれだけではありません。例えば矢川澄子訳(新潮文庫)では「ぐん、ぐん、ぐうん」となっていますし、河合詳一郎訳(角川文庫)では「ひゅーんと下へ、どこまでも」と擬態語のようにとらえられています。“down”という単語を三回繰り返しただけの言い回しですが、もしかしたらこの一文を「落ちてる、落ちてる、まだ落ちてるわ!」というアリスの心の中の声のように考えることもできるかもしれません。様々な翻訳を比べながら、自分ならどういう日本語にするだろう?と考えていくと、言葉の世界が広がって、面白さが増していくのではないでしょうか。
Column
教員コラム