日本文学の小説の翻訳を手掛けている、アリソン・パウエルさんから連絡をいただき、今度出版する日本でも一時期評判になった、川上弘美の小説『センセイの鞄』に詩が引用されているので、その英訳にエリオット先生と私で訳したものを使わせてほしいという許可願いが届いたのは、およそ2年くらい前だった。その後、アリソンさんは許可願いを正式の形で執り行いたいと、わざわざニューヨークから東京に来た折、品川のオイスター・バーで歓談しながら、ニューヨークの出版社に勤務し日本文学の翻訳をする楽しさを伺いながら、サインをした記憶が蘇ってくる。たった数行の訳を使うだけなのにと思うのだが、契約を第一に考えるアメリカらしい法律社会のきびしいしきたりが、ふと頭をよぎった。この4月にその本が出版されるので、原作を読まれた方は、英訳で英語の日常の対話の流れをつかむのにはもってこいの素材なので、おすすめしておきたい。英訳はHiromi Kawakami. The Briefcase. Counterpoint Press, 2012.というタイトルになっている。特に英語の読解力と語彙力を伸ばすには、小説を読むのが身近な勉強方法だが、意外と日本文学の英訳を使ってみる方法が、個人的には一番役に立つような気がする。
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