この4月から文学部のチャプレン(宗教主事)になった安井聖(きよし)です。イエス・キリストの教えを建学の精神としている関東学院大学では、授業や大学礼拝を通じて学生の皆さんに聖書に触れていただく機会を提供しています。聖書は1000ページを超える大きな書物です。その中では、いろんなことが語られています。でもいろんなことを語りながら、聖書は一所懸命に神を紹介しています。神はわたしたちの父だ、そう語りかけています。
最近わたしはオランダの画家レンブラントが書いた『放蕩息子の帰宅』という絵を見て、大変に心打たれました。新約聖書が紹介しているイエス・キリストの譬え話を題材にして、レンブラントはこの絵を描きました。父を捨てて家出した息子が、贅沢な生活をした挙句に一文無しになってしまい、食べるのにも困るほど落ちぶれてしまいました。その時息子は、父のところでは食べるのに困ったことなど一度もなかったことを思い出しました。そこで召使いでいいから父の傍に置いてもらおうと思って帰ってきました。しかしずっと帰りを待ち続けていた父は、まだ遠くにいる息子を見つけて、走り寄って抱きしめ、息子が帰ってきたことを心から喜びました。この憐れみ深い父が息子を抱きしめる手を、レンブラントはこんなふうに描きました。何とも柔らく、あたたかそうな父の手! その手にしっかりと包み込まれて、安心しきって身を委ねる息子の背中! イエス・キリストは語りかけています。神はこんなにも柔らかく、あたたかな手で人間をしっかりと受け止めていてくださる。人間はこの息子のように、心安らいで生きることができる。
「人になれ、奉仕せよ」。関東学院大学の校訓です。ここで学ぶすべての学生が、進んで他者に心を開き、その人のために喜んで奉仕する人間となるように! そんな祈りと願いが込められています。喜んで他者のために生きることができる人は、その人自身が安らいだ心で生きていると思います。父なる神の懐の中にこそ、安心して生きることのできる場所がある、と聖書はそう語りかけています。
(比較文化学科 安井 聖)