1.「ゆんたく」 − ウチナーグチ(沖縄言葉)の響き
「ゆんたく」とは、沖縄の言葉です。直訳すれば、「おしゃべり、会話」を意味します。確かに、「おしゃべり」や「饒舌」からくるマイナスのイメージが付いていることは事実ですが、この訳語だけでは表現されていない豊かな情景が含まれています。沖縄文化を象徴する大切な言葉であり、とても親しみのある言葉です。
直射日光のあまり強くない朝方あるいは夕方に沖縄のシマ(村落)を歩くと、あちらこちらで近所のお年寄りが語り合う光景が見られます。沖縄てんぷらやお茶が用意され、ふだんの暮らしについて話しています。ガジュマルの木の下で、あるいは海岸で、日々、忙しく働いているシマの人びとにとって、貴重な時間です。
2.十五夜行事での「ゆんたく」
この夏、そのような時間を宮古・来間島で体験する計画を立てています。9月12日(旧暦8月15日)に「日本文化探訪Ⅰ(沖縄)」という比較文化学科専門科目の研修で、2年生の5人と一緒に農家を訪問し、十五夜行事を体験します。行事の準備をし、お供えものを作りながらの「ゆんたく」のひとときを楽しみます。その場に流れる時間を読むことも一つの目的です。物理的な時間とは少し異なるそれぞれの地域の時間を知ることは、メンバーが自分の学生生活における時間を見直すよい機会です。
この日は、沖縄の各地で綱引きが行われたり、臼太鼓(ウシデーク)という太鼓でリズムを取りながら勇壮な踊りが披露されたり、棒を巧みに使って演技する棒踊り、獅子舞等々、沖縄の代表的な芸能の多くが登場します。豊作の感謝祭であり、また、翌年の豊作を願う予祝の儀礼でもあります。宮古島では、満月に供えるものとして「フチャギ」という細長い餅に黒ササゲ(フーマミ)をまぶしたものを作ります。黒ササゲが幸いを象徴し、餅に沢山付くことを願います。素朴な餅です。作り手の素直な気持ちが伝わってきます。
かつて、ニコライ・ネフスキー(民族学者、日本文化研究者)は、宮古島に滞在して知り得た「月に関する伝承」を『月と不死』(1928)としてまとめました。宮古島の昔話にみる生死観は文化人類学・民俗学における大きなテーマとして研究されてきています。月を愛でながら、ゆんたくしましょう。当日は晴れますように。
※2009年8月25日 来間島 (左の高台に集落があり、畑作地が広がっています。宮古島と多良間島を往復する「フェリーたらまゆう」のデッキで撮影しました。飛行機はこの島の上空を通過し、宮古島空港に向かっています。日本で有数の「農道橋」はこの島と宮古島を結ぶ重要な生活道路です。この橋が完成する前は、人びとが船着場に集まるのを待って往復する小船が重要な交通手段でした。懐かしい限りです。)
その後、ヤビジ(八重干瀬)へのクルージングも予定しています。柳田國男の『海上の道』(1961)に登場する文化伝播の経路について、改めて考えてみましょう。
さらに、宮古島市立図書館を訪問し、研修メンバー、一人ひとりの研究テーマに関連する郷土資料を閲覧します。4月からゼミナールの卒業生がこの図書館に勤務していますので、再会を楽しみにしています。
3.オープンキャンパスでの「ゆんたく」
今月のオープンキャンパス(8月21日)では、多くの高校生との「ゆんたく」を期待しています。卒業生には、オープンキャンパスで進学に関する「ゆんたく」をきっかけとして、受験の日に、そして在学4年間に、繰り返し「ゆんたく」を楽しみながら学生生活を送った人もいます。間近となった受験に関する話から「大学ではどのように学び、どのように研究をしていくか」という来年度以降の話まで、テーマは色々あります。「ゆんたく」を楽しみましょう。
(本コラム・エッセイは、「日本文化探訪Ⅰ(沖縄)」のメンバーおよび大越ゼミナールのメンバーに送信した「研究室通信(大越)(2011-7)(20110620)」をもとに編集しました。ゼミナールのメンバーとは、「研究室通信」での「ゆんたく」も楽しみ、卒論作成のための作業を進めています。)