2012.10.12.
比較文化学科富岡 幸一郎

モダニストとしての源実朝

 10月6日(土)〜12月9日(日)まで鎌倉文学館で特別展「生誕820年 源実朝」が開催されています。実朝はご存じの通り、鎌倉幕府の三代将軍で歌人としても高名です。武士としては28歳で暗殺されるという、悲劇的な生涯でしたが、その和歌は明治以降になってとりわけ再評価され(正岡子規や斎藤茂吉といった人々)、学校の教科書にもその歌は載っています。私は、高校生の頃に評論家の小林秀雄が昭和18年に書いた「実朝」を読み、その歌に込められた青年の孤独感と憂い、自らの死を予感したような言葉の響きに深く感動したことを今も覚えています。小林秀雄の新潮文庫本『無常といふ事』に収められ、今も読むことができます。
≪大海の磯もとどろに寄する波われて砕けて裂けて散るかも≫
この歌は、実朝の代表歌のひとつです。ダイナミックな海の様子とスローモーションの映像で捉えたような波しぶきの微細な動きが描き留められています。
今回の展覧会は歌人の尾崎左永子さんと明星大学文学部教授の前田雅之さんのおふたりに監修をお願いしました。また、鎌倉に縁の深い8人の文学者に実朝の秀歌を選んでもらい、コメントしていただきました。
古典が苦手な人でも分かりやすく見れます。実朝の現代に通じるモダンな感覚が和歌という定型のなかに躍動しています。