2014.09.11.
比較文化学科富岡 幸一郎

川端康成の文学

川端康成は『伊豆の踊子』や『雪国』で有名な日本を代表する小説家です。昭和43年に日本で初のノーベル文学賞を受賞しました。

この5月に岩波書店から『川端康成 魔界の文学』という本を刊行しました。昨年の春から一年程かかって書き下ろした川端の主要な作品について論じた評論集です。川端文学というと、多くの方は『雪国』という作品の表面的な印象から、日本人の美意識や伝統を現代文学として描いたと思いがちです。しかし、実際にその小説を読んでみると、決して日本の伝統美を描いたものではなく、人間の愛と心の深い世界を鋭く捉え、それを流れるような日本語で斬新に表現しています。今回の私の評論集では、「魔界の文学」というキーワードで川端を論じましたが、この「魔界」という言葉は、作家が生涯をかけて探求したものであり、言葉を超えた言い難い心の世界のことです。川端は、禅宗の一休さんの書に書かれたこの言葉を大切なものとして、特に戦後の『山の音』『千羽鶴』『みづうみ』『眠れる美女』『たんぽぽ』などの小説を書き続けました。

雪国初版本(400)

川端康成は、昭和47年の4月に逗子のマンションでガス自殺を遂げましたが、その死は生涯を小説という表現に捧げた末の死であったと思われます。

8月24日(日)深夜24時~25時に、ラジオJ-WAVE『Growing Reed』でV6の岡田准一さんと川端康成の文学などについて対談しました。

川端の小説は、現代の日本語の最高の技術的水準と行間を読ませる深い味わいをもった世界です。『伊豆の踊子』は静かな川の流れに身を浸すように、美しい旋律によって読者を最後まで運びます。『雪国』は書いてあることだけでなく、省筆によって行間から立ちのぼってくるものを読み取れれば、これまでの印象とは全く異なった新たな世界を示してくれるでしょう。私が今回この本を書いて最も驚かされたのは、『みづうみ』という作品でした。実に不思議なシュールでかつリアルな愛の賛歌です。川端という作家のまさに「魔界」がここに体現されていると感心しました。最近、川端の初恋の人へのラブレターが公開されましたが、15歳で祖父を失い、天涯孤独の身となった川端少年は、初恋に破れることによって素晴らしい文学を生み出したのです。新潮文庫などで川端作品は読めますので、若い人たちにも是非チャレンジしてもらいたいと思います。

魔界の文学(300)