エアラインは、じつに英語をよく使う業界です。これは、航空がもともと英語圏から輸入された輸送手段であることに由来します。航空機材もほとんど欧米で開発されたものが多かったため、航空関連の複雑なマニュアルを読むためにはまず英語に習熟する以外に道がありませんでした。実際、エアラインで使われる専門用語は特殊な表現や略語が満載で、航空会社に入社すれば、入社式の翌日から研修が始まり、分厚い百科事典のようなバインダーファイルを渡され、非常に短期間でマスターすることが求められます。国際線、国内線ともに通信語も書類もすべて英語で、俗に言う「航空英語」もそのなかに含まれ、航空業界に携わるからには、否が応でも専門的な航空英語を使わなければならないのです。
では、航空英語とはどのようなものなのでしょうか。英語それ自体は、文法も語法も、皆さんが普段教室で学んでいる英語とまったく変わりはありません。やっかいなのは、独特な言い回しをはじめ、特殊な専門用語や技術英語、略語が頻繁に登場するので、それらを一つひとつ憶えていないと、通信相手が何を言っているのかさっぱりわからないということです。航空英語で用いられる代表的なものに略語があります。これには、たとえば都市コードや空港コード、エアラインコードといったものがありますが、今回は日本の都市コードと空港コードに絞ってお話しします。
航空業界では、国際航空運送協会(IATA)の定めにしたがい、都市や空港を3つのコード(three-letter code)で表します。日本の主要都市・空港コードでは、たとえば、東京はTYO、横浜はYOK、大阪はOSA、函館はHKD、高松はTAK、徳島はTKSなどがあります。空港コードは、主要な空港を例にとると、羽田(東京国際空港)はHND、成田(成田国際空港)はNRT、伊丹(大阪国際空港)はITMといった感じです。これらは何となくローマ字記述の短縮から推測できるコードでしょう。でも、関西国際空港はKIXと表されます。最初のKIがKansai Internationalの意味だとすれば、最後はAirportのAのはずなのにXとはなぜなのでしょう。実は、これは、AirportのAをつけたかったがすでにそのコードは利用済みであったためXとしたのだそうです。もっとも、商用のお客さまは、普通に関空のことを「キックス」と親しさを込めて呼んでいるので、関空営業サイドからすればむしろ広報的にもよかったのかもしれません。
都市・空港コードで特徴的なのが、稚内のWKJ、青森のAOJのように最後にJがつくもので、結構多くあります。これもJはJapanのJかなと思えば納得がいきますね。慶良間空港はKJPなので完全に「JP=日本の領土」アピールです。やっかいなのはQです。千葉はQCB、金沢はQKW、小松はKMQ。JならともかくQなんて、むしろ憶えるこちらのほうが「Q=クエスチョン」だと言いたい気持ちです。名前の逆転現象なんていうのもあります。神戸は「KOBE」なのにUKB、京都は「KYOTO」なのにUKYといった感じです。こんな有様なのでエアライン研修時などでは、小松は「コマキュー」、神戸は「ウコベ」、京都は「ウキョ(ウキュ)」などの奇妙な暗記法が広まるほどです。このほか、釧路はKUH、札幌はSPK、秋田はAXTなどというように「無縁文字」もヴァリエーション豊富ですが、3文字中2文字で場所はだいたい判別できるからよしとしましょう。
最後に極めつき2問。KIJはどこだと思いますか。実は、これは新潟です。こうなると地名のどの子音も入っていません。じゃあUEOはどこでしょう。「ウ…ウエオ!?」もはや母音だけ。何とこれは久米島なのですが、「kUmEjima」だと考えても無理がありすぎですね。以上、都市・空港コードの難しさについて見てきましたが、4月になると新人を悩ませるのが、この都市・空港コードなのです。