1回間があきましたが、またいただいた本の話をいたします。今回は、堀切実先生のご著書『偽装の商法――西鶴と現代社会』(新典社新書13、2008年、新典社)です。

昨年(2013年)は、食品偽装事件(食材偽装事件)が世間を騒がせました。有名ホテルのビーフステーキに牛の脂を注入した牛肉が使われていたり、車エビがブラックタイガーだったり。堀切先生の『偽装の商法』は、こうした世相をうけての新刊かというと、そうではありません。6年前、2008年に出版された本で、私もその時にいただきました。みなさんお忘れかもしれませんが、当時も食品偽装事件が問題になっていました。読み直すには、今が絶好のタイミングでしょう。

たとえば「ミートホープ事件」、覚えていますでしょうか。堀切先生が本書で「元禄のミートホープ事件」としてとりあげるのが、西鶴『日本永代蔵』巻四の四「茶の十徳も一度に皆」。それは、こんな話です。
越前国敦賀に小橋の利助という男がいました。利助は「荷(にな)い茶屋」(茶釜や水桶などを担いで煎茶を売り歩く、移動式の茶店です)から身を起こして、茶葉を商う大問屋になります。大問屋になった利助、魔が差したか、悪徳商法を思いつきます。飲用の茶葉に、二束三文で買い集めた茶の煮がらを混ぜて売り出したのです。一時は暴利を得たものの、結局は悪事が発覚、お客から見はなされてしまいます。でも、なぜ悪事が発覚したのでしょうか。お店のだれかが内部告発したのでしょうか。

実は、狂人となった利助自身が、「茶がら茶がら」と言いふらして歩いたのです。「天これをとがめ給ふにや(天がこれをお咎めになったのだろうか)」。西鶴は、そう書いています。現代風に読みとけば、良心の呵責にたえきれなくなった――というところでしょう。この後、利助が金銀にかじりついて最期を迎えるシーンも見所なのですが、みなさんでお読みくださいね。

『日本永代蔵』からは、小橋の利助の話のほかにも、「偽薬を売りつけて資金稼ぎ」(巻二の三「才覚を笠に着る大黒」)、「ブランド偽装の商法」(巻五の二「世渡りには淀鯉のはたらき」)などが紹介されています。こちらも、あわせてどうぞ。

ところで、折しも、某有名作曲家にゴーストライターがいたと大騒ぎですね。さて、これも「偽装」になりますのでしょうか?

*『偽装の商法』表紙画像の掲載にあたっては、新典社様のご厚意にあずかりました。