北イングランドのヨークシャー州にあるリーズ大学は、中世学では国際的に有名で、毎年7月初旬に学会が開催されます。この時期には世界各国から中世学者がリーズ大学を訪れ、一年かけて準備してきた、中世(3-15世紀)に関するあらゆるテーマの研究を発表します。2年前まではリーズ市郊外にあるボーディントンキャンパスで開催されていましたが、参加者が年々増加し、全員を収容しきれなくなったため、昨年から市の中心に近い本キャンパスに会場を移して開催されることになりました。以前の、森も草原もあり、かつてはマナ・ハウス(荘園領主の邸宅)だったという、朝食が格別に美しいホテルを備えたキャンパスは忘れがたいのですが、新しい会場も広々としており、繁華街に歩いて15分くらいの近さですが、緑深く閑静で落ち着いた、心和むたたずまいの会場です。

今年度は2014年7月7日-11日開催でしたが、準備のために7月4日にリーズに入りました。当日、リーズがトゥール・ド・フランスの出発地というわけで、駅前は大変な賑わいで、いつものとおりは封鎖というわけで、迂回して大学に入りました。

教員C 多ヶ谷先生 写真1

写真① 大会旗

教員C 多ヶ谷先生 写真2
写真② 学会が開催される校舎

正門を入るといたるところに写真①②のような旗が飾られ、「今年もようこそいらっしゃい」と声をかけてくれているようです。学会とはいえ、どこかお祭りのような心楽しさ、浮き浮きする気分を引き立たせてくれます。ヴォランティアのサポーターがあちこちに立ち、主催者の気持ちよく参加してほしいというホスピタリティが伝わります。

今回の大会統一テーマは‘Emperor’でした。私たちのセッションは‘Emperor Poet’というテーマで準備をし、ドイツの研究者が神聖ドイツ帝国のハインリヒ六世、アゼルバイジャンの研究者が中世末期のイスラムの皇帝詩人について、そして私は醍醐天皇と古今和歌集についての発表をしました。「中世」それも3-15世紀の何をテーマにしても良いのですから、人文、社会、自然科学の各ジャンルのありとあらゆるテーマがプログラムに入ってきます。

日本からも例年数人の研究者が参加して発表をしています。文学語学ばかりでなく、日本の鎌倉仏教や平安、室町などの時代を扱った発表も見られます。鋭いけれども決して攻撃的ではない質問やコメントは、学ぶということがどういうことかということを思い出させてくれ、セッションの後で質問してくださった方々との話し合いで自分のテーマをより深く明確にとらえることができ、この学会で発表することは愉しいです。

教員C 多ヶ谷先生 写真3
写真③ 宿舎

教員C 多ヶ谷先生 写真4
写真④ 宿舎から学会会場に向う道

上の写真③が参加者に用意された大学内のホテルです。個室にシャワー・トイレ、電話がついて、ゼミダブルのベッドと勉強用の机や戸棚などが備えられ、一般の学生等の寄宿舎よりは立派ですが、学会の発表会場も食堂も24時間開室のコンピューター室などすべて必要な設備が手近にそろっており、なによりも便利です。

7月のイギリスは10時になってもまだ暮れきれず、澄んだ蒼い空が広がっています。いつしか眠りに入りつつ、どこかで小鳥の囀る声に気がつきます。歌う様に、幸せそうに、愉しそうに、一晩中歌うこの鳥が、これがナイチンゲールだと知ったときの嬉しい驚き。子供のときから詩や童話や物語などでその名だけを知っていたナイチンゲールとはこれか!と感動して毎晩、その囀る歌に聞きほれました。

宿舎を出ると写真④で見るとおり、気持ちの良い林です。この道を通って食堂棟に行きます。

教員C 多ヶ谷先生 写真5
写真⑤ 会場手前の建物

この林を出ると、道の両側にこの写真⑤のような建物がずっと続いています。どうやらアパートらしいのです。3階建ての建物がユニットになっているテラスハウスです。必ずしも住宅目的というわけではないようで、何らかの施設として使用されている場合もあるようです。

この通りの突き当りを曲がると食堂棟があります。文学部の一番大きい教室を二つ分以上に広い食堂です。料理を挟んで並びますと、実に要領よく、いくつかのメニューの中から好みのものを好きなだけお皿によそってくれます。テーブルは4-8人が一つのテーブルで食事ができるようになっています。パン、デザート、果物、飲み物は料理とは別のテーブルに用意されていて、好きなだけ持っていくことができるようになっています。

この建物の隣に、University Houseという大学の中心部と、University Unionという学生の厚生施設があります。大学グッズ、スーパーマーケット、美容院、ネイル・アート、眼鏡屋さん、銀行、ATMが数箇所、そしてOld Barという名のバーがあります。食事だけでもOKです。深夜まで営業していて、大型テレビがあり、学会会期中は、トゥール・ド・フランスとサッカーの試合を放送していました。

教員C 多ヶ谷先生 写真6

写真⑥ 食堂のある建物

下の写真⑦がGreat Hall(グレートホール)と呼ばれる建物です。多分日本なら5階建てくらいの高さですが、二階以上は吹き抜けになっています。モザイクの美しい廊下、木目の美しい腰板、ステンドグラス、荘重な建物です。学会始の基調講演はここで行なわれます。研究書の活字でしか知らない高名な研究者が約一時間講演をします。内容は重厚で深遠ですが、言葉はわかりやすく、冗談も交え、和やかな雰囲気の中で講演が終わります。ここから学会の諸発表が始まります。30分が3人で1セッション、セッションとセッションの間約30分のコーヒータイムがあり、コーヒーを飲みながらセッションの続きの話などをするのです。

教員C 多ヶ谷先生 写真7

写真⑦ Great Hall(グレートホール)

教員C 多ヶ谷先生 写真8
写真⑧ Great Hall(グレートホール)の前庭

Great Hall(グレートホール)を出ると、目の前に花壇があります。皆が学会などですたすた歩いているときも、誰かが花壇や庭木の手入れをしています。美しいキャンパスを維持するためにはこうした陰の力が大きいなあと思います。

学会は月曜日から木曜日の夕方までは、各セッションの発表が中心ですが、夕食後には、楽しいプログラムが用意されています。中世の音楽ですとか、叙事詩や抒情詩の朗読、カリグラフ(花文字?)の実習のほか、毎日、半日あるいは一日がかりの遠足があります。近いところではリーズの町のツアー、ヨークの町ツアー、あるいは中世時代の教会、カテドラル、修道院見学等々。多様な中世学者が揃っているので、その中の専門家がガイドになって心踊る楽しい遠足を楽しむことができます。

学会の会期中、20を越える書店の展示があり、学会割引価格で本を買うことができます。水曜日の午後と木曜日の午前にはその本をどこにでも送ってくれるサービスもあります。たくさん本を買う人には大変便利なサービスです。

毎年愉しみにしているのは、「中世の饗宴」と称する晩餐会です。中世時代の食事というわけで、パンも料理もワインも現代とは少し違います。みなどれもスパイスが多いかな、ワインはスパイスが入っているだけでなく少し甘いかな、でもおいしいな、というのが一般的な評判です。木曜日の夜には夜中過ぎまでダンスパーティがOld Bar(オールドバー)で開催されます。私は夜起きていられないので、まだ参加したことはないのですが、一度行ってみようかな、なんて思っています。

学会の前後にも良いプログラムが用意されています。前日には一日がかりの遠足が、半日の遠足、あるいはコンサートなどがあります。学会後には、4泊5日のツアーもあります。これまで参加して心に残っているのは、南ウェールズのお城めぐりと北ウェールズのお城めぐりです。南ウェールズの時には、スォンシー大学の学生寮に泊って、二人の大先生のガイド付きで10くらいのお城を回りました。ウェールズ訛りの英語はなかなか聞き取りにくいのですが、陽気で冗談の大好きな大先生たちの暖かいガイドに心から楽しみました。北ウェールズの時にはバンゴール大学の学生寮に泊りました。

来年のIMC2015の申し込み締め切りが8月末なので、夏休み中に発表要旨を送って、来年もぜひ参加したいと思っています。いつか、関東学院大学の学生と一緒にセッションを組んで一緒に発表したいなと思っています。