高校生の皆さん、夏真っ盛りになってきましたが、毎日高校生活を楽しんでいますか。私は、国際文化学部英語文化学科教授の入江識元です。アメリカ文学やアメリカ外交史、また、いつも就活ネタで航空業界を取り上げている通り、航空事業論が専門分野です。

今回は、国際文化学部英語文化学科英語圏文化・文学コースのカリキュラムにおける5群専門演習科目に位置づけられている「アメリカの小説と文化」という科目をご紹介します。大学の授業は、高校と似通った点ももちろんありますが、異なる点も多くあります。大学の授業の一端をぜひ感じ取っていただければ幸いです。

この科目は、アメリカ小説と銘打っている通り、19世紀の代表的な小説史の流れを把握しながら、具体的な作品をいくつか取り上げて演習を行っています。今年度扱ったのは、ワシントン・アーヴィング(Washington Irving; 1783-1859)、エドガー・アラン・ポウ(Edgar Allan Poe; 1809-49)、そして、マーク・トウェイン(Mark Twain; 1835-1910)の各小説です。これらの作家の名前は、皆さんも英語や国語の授業、あるいは世界史の授業で聞いたことがあるかもしれませんね。

この演習の主役は受講している学生です。50名弱と決して少なくはない受講生全員が6つのグループに分かれ、それぞれのグループからリーダーとサブリーダーが選出されてまとめ役となり、後で説明するレジュメを切って研究発表を行います。

研究発表を行うまでのプロセスは以下の通りです。

まず、担当教授が作家と作品、および作品が書かれた時代背景を説明します。そして、その作品を2週ほどの授業で原著と論文資料および映画などの映像資料で全員が把握するのと並行して、その作家と作品について各グループが研究テーマを分担してグループごとにレジュメを切ります。

ちなみに「レジュメを切る」というのは、還暦を過ぎた筆者が大学生になる以前からすでに大学で伝統的に用いられてきた学生言葉なのですが、レジュメとは、「履歴書」の意味もありますが、ここでは、研究発表の際に聞き手(オーディエンス)に配付する資料を指します。発表者の研究を要約した文章や図表などで構成され、聞き手の理解を補完するだけでなく、発表者のプレゼンの方向性を随時修正するため、レジュメをきちんと切ることは、研究発表では結構重要なプロセスです。

発表者はグループで1つのレジュメを作成して、WEBを通じて授業内で受講生全員が共有し、聞き手は各自スマートフォンでレジュメを参照しながら発表を聞きます。







グループの発表が終わった後、聞き手は採点グループごとに質疑を開始し、発表者は応答します。
質疑応答では、各グループのリーダーとサブリーダーを中心に、どのような質問をするかについてもグループ内で協議します。その協議を経てなされる質問ということもあり、またその応答も採点に含まれるため、発表者の意表を突いた質問が出ると結構白熱した議論になります。









質疑応答が終わると、これら質疑応答も含めて全体について、聞き手は授業独自の採点表により採点し、最優秀グループとMVP(グループでの最優秀発表者)が各採点グループから発表されます。今年は特に雄弁なリーダーが揃ったためか、質疑応答では結構な論戦となり、MVPは営業系、飲食系などのアルバイトで活躍する学生と教職志望の学生の痛み分けとなりました。

この授業で目指すのは、アメリカ小説の知識のインプットとアウトプットといった専門的なものだけではありません。グループでレジュメを作成し発表することや、発表を聞いて質疑応答を行い採点することで、学生が社会に出てから日々行うプレゼンとクライアントからの質疑応答に対する度胸をつけるという目的があります。仲間と情報を共有しながらレジュメをともに作成することで、グループで成果物を作成する難しさが経験できます。単独での発表なら自分のやりたいようにやればよいのですが、仲間とコミュニケーションを取りながら一つのプレゼンを作りあげることで、仲間を動かすことの難しさ、意志を受け取り、伝えることの難しさを知るのです。

毎回の結果発表では、最優秀グループとMVPが発表されるたびに、意外な結果だというかのように、学生からは歓声が上がったりため息が漏れたりします。発表内容やレジュメの内容の正確性、有用性、新規性だけではなく、場の盛り上がりや発表者の持つ言葉のチカラ、言葉以外の表現力、すなわち、プレゼン力によって評価が左右されるのを、学生は目の当たりにするからです。就活の面接では、エントリーシートの内容や自己PR、学生時代に力を入れたことの文言そのものよりも、学生自身の持つ伝えるチカラ、気力、アイコンタクト、抑揚など、聞き手に印象づけるものが評価されます。なぜなら、ひとの心(つまりはビジネス)を動かすのは、商品そのもの以上に、それをアピールするプレゼン力によるからです。

「人生は毎日がプレゼン」です。高校生の皆さんも、入学者選抜などの面接では、言葉のチカラだけでなく言葉以外のチカラを発揮できるよう頑張ってください。