2017.10.17.
比較文化学科富岡 幸一郎

小説『沈黙』を講義で読みました。

今年の春学期に「比較文化論Ⅰ」という講義をしました。

取り上げたのは遠藤周作の代表作『沈黙』(新潮文庫)です。この作品は、戦国時代の末期にキリシタンが日本国内で弾圧され、多くの殉教者を出した、そうした歴史を背景にしています。織田信長などが関心を持つことによってキリスト教(カトリックの一派であるイエズス会を中心にした)は日本にも伝わりました。オランダやスペインの宣教師がやってきて、戦国大名や農民・民衆にあっという間にキリスト教信仰が広まったのです。しかし、その後豊臣秀吉そして徳川家康の頃からキリシタンは厳しい弾圧にさらされました。日本がキリスト教国によって支配される恐れや、キリシタンの人々が時の権力者に反抗する(島原の乱など)ことをやめさせるためです。

『沈黙』は、ロドリゴという宣教師が、この厳しい状況にもかかわらず日本に潜入し、隠れ潜んでいた農民のキリシタンたちを指導しようとする話です。そして過酷な拷問や殉教の現実が描かれています。ロドリゴもその現実のなかでキリスト教の信仰を捨てるという究極の決断に迫られるのです。

講義では、作品を読みながら当時の日本の歴史的状況やキリシタン弾圧の事例を参照し、日本人とキリスト教、日本の宗教・精神風土と西洋の宗教・精神風土との比較などをしてみました。

関東学院は、キリスト教をその教育の基盤にしています。明治6年に、ついにキリスト教禁令の高札は外され、その後多くのキリスト教信者が日本でも生まれました。学校教育においてもキリスト教信仰が大切にされてきています。大学では、キリスト教の専門科目もありますが、『沈黙』のような小説を通してその宗教と歴史に触れることも面白いと思います。

今年、『沈黙』が映画化されました。私も観ましたが、素晴らしい映画でした。拷問や殺害のシーンが嫌だという人もいるかもしれませんが、歴史と信仰という大きな問題を考えるうえでもぜひ観ていただきたいと思います。