2022.05.13.
比較文化学科八幡 恵一

フランスの思い出その7

 フランスではたくさんの知り合いができました。そのうちの何人かとは、日本人の友人以上にいっしょに遊んだり、日本に旅行に来たときに案内をしたり、非常に親しい仲になったのですが、今回はその最初のひとりであるMくんについて紹介したいと思います。
前回のコラムで、ある学校の寮に引っ越しをしたことを書きました。その学校では、学生の語学能力の向上のため、学生から希望者を募って私のような留学生とペアをつくり、そのペアでたがいの言語を教え合うという制度がありました。制度を利用したい学生と留学生は、名前や性別、母国語(自分が教えられる言語)、勉強したい言語などを事前に申し込み用紙に書いて提出し、学校側がそれを見て適当なペアをつくります。ペアになった者は、それぞれで連絡を取り合い、たとえば週に一度どこかで会ってたがいの言葉で話をします。非常にいい制度で、私も学期開始後すぐに申し込みました。
ペアの発表は、申し込みからしばらくして学校のある教室で行われました。私は一年生の男の子とペアになり、それから半年ほど、その子と週に一度かれの部屋で会って、かれが日本語の授業で課された課題を教えてあげたり、フランスで起こっている出来事(外国人には理解しにくいもの)をわかりやすいフランス語で説明してもらったりしました。
その子とも仲良くなったのですが、それ以上に親しくなったのがMくんで、Mくんはペアの発表の日、発表がすべてすんでもう解散になろうかという時間に慌てて教室に入ってきました。担当者の先生と二言三言、言葉を交わすと、がっくりとした様子で椅子に座りました。私やいっしょに参加していた友人はみなペアの発表がすんでいたので、さて帰ろうかというとき、Mくんが話しかけてきました。どうやらかれは、日本語を勉強したいが申し込みを忘れていて、もしペア決めで余った日本人がいたらペアになりたかったようでした。残念ながら余りはおらず(日本人は私を含め4人参加していましたが全員ペアが決まっていました)、しかしそのことを先生から聞いたかれは、諦められない、もし君らがよければ自分ともペアになってくれないか、と私たちに話しかけてきたのです。
ペアの相手がひとりでなければならないという決まりはなく、私ともうひとり、日本人の友人が、二対一でMくんとペアになって(場合によっては交代で)かれの相手をすることにしました。事前に申し込みをしていなかったこと、教室にぎりぎりで入ってきたことなどから、人物に関して正直ちょっと不安なところがありましたが、やがてそんなことがまったく気にならなくなるくらい(むしろあとで笑い話になるくらい)、私たちはMくんと親しくなっていきます。(続く)


※写真は学校の教室から見た中庭です。うっすらと雪が積もっています。