2010.01.28.
比較文化学科大越 公平

「もの」への感謝 ― 針供養

毎年2月8日または12月8日に行われる「針供養」という行事があります。
折れた針や古くなった針を豆腐に刺し、神社やお寺などで供養のための
儀礼を行います。現在では被服(とくに和装)関係の職業に就いている方
のみが参加して行われ、家庭で行うことはほとんどないようです。
また、各地域の神社等によくある筆塚や諸道具の塚で行われる行事も
これに関連する民俗行事です。

「もの」への感謝の念、畏敬の念を「供養」として表現し、行事を組み立てることは、
日本の伝統的文化の特徴の一つといえます。
最近、環境保護、資源保護の観点からものを大切にする考えが再認識され、
実践する試みが多くの社会で定着してきているようですので、このような行事を
実際に行うことはないにしても、この伝承を学び、環境保護、資源保護の問題と
関連付けて考えてみることも必要でしょう。これまで使ってきたパソコンや携帯電話
に感謝し、リサイクルを円滑にすることもこの行事が示唆していることかもしれません。

飛行機の墓場といわれているアメリカのモハベ空港の様子を取材した記事を
インターネットで容易に探すことができます。役目を終えた飛行機には
「ありがとう!」、「素晴らしい飛行機だった」という文字があり、
それは日本の航空会社が運航した飛行機であったと報告している記事があります。

ここにもこの伝統行事の考えが受け継がれているのかも知れません。
伝統的文化の現代化現象をゼミナールのメンバーと一緒に追いかけてみたいと
思っています。

「もの」への感謝の念を世界の諸文化ではどのように表現し、
行事化しているでしょうか。日本とはかなり事情が違っているようです。
文化人類学・民俗学の観点から一緒に考えてみませんか。

画像は2009年2月8日(日)に行われた横浜市磯子区にある岡村天満宮での
針供養です。儀礼が行われた後、針と豆腐は境内にある庭の木の下に埋
められました。土としての再生を考えた習俗といえます。

(比較文化学科 大越公平)