2017.03.31.
比較文化学科菅野 恵美

中国曲阜で見た新しい旅の形

中国山東省の曲阜という都市をご存知でしょうか。紀元前6世紀の思想家、孔子が生まれ育った町です。孔子が開祖となった儒学は、中国だけでなく朝鮮・日本など東アジアの国家に大きな影響を与えて来ました。この孔子を祀った廟と、孔子の子孫たちの眠る墓地が広がる広大な区域が曲阜にあり、世界遺産に登録されています。2016年10月末、大学の学園祭期間を利用して、私は晩秋の曲阜を訪れました。

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孔子を祀った祠は「孔廟」と呼ばれています。世界遺産のある曲阜にはたくさんの旅行客が訪れるため、様々なアクセス方法があります。中国の新幹線「高速鉄道」が曲阜を通るように敷設されているので、北京から鉄道で2時間半ほどで行けます。飛行場も近隣の県につくられています。中国国内ではバスでももちろん行けます。

今回は、世界遺産の曲阜で目にした、面白い旅の形を紹介したいと思います。

私が曲阜で宿泊したホテルでは、古い時代の衣装を身につけた人を見かけました。始めはホテルに雇われた役者かな、と思っていました。ただ、ロビーのソファーで足を伸ばし背伸びをしたり、とってもくつろいでいるのです。翌朝の朝食で状況が漸く理解できました。朝食のビュッフェでは、長い袖の時代装束を着た人々が100人ぐらい食事をしてました。よく見ると、儒者風のいで立ちにあごひげを生やした若者や、若い女性では淡い色の袴を胸高に着て、上衣の上にさらに足首までの長いマントを羽織っている人もいます。役人風の人もいれば、宮女の様な姿もあり、中学生ぐらいの子供もいるようでした。それぞれが髪型から全身を時代衣装に身を包んでおり、色とりどりだけれども、雅な色合いでした。実は、彼らは時代衣装の格好で孔子を詣でる旅行団だったのです。夜にもその格好で居るようで、一日中をそのまま過ごして居るようでした。夜もホテルのロビーでお喋りしてましたから。

さて、100人が食堂から一斉に姿を消し、ホッとして私は朝食を済ませました。その後歩いて孔廟に行くと、なんと先ほどの一団が整列し、司会者に合わせて論語を復唱する儀式に出くわしました。その後、彼らは厳かに廟の中に入場していったのです。

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この儀式だけを見たのならば、人を雇ってイベントを行ったか、あるいは地元の人による祭りだと思ったかもしれません。でも決して安くはないホテルでの宿泊客としての彼らの姿を見ていた私は、これが商業的なツアーであり、また、歴史的名所の雰囲気を盛り上げる活動にもなっていることに感心しました。文化遺跡のある地元が、それほど経済的負担をせずに、このイベントは成立可能なのです。

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恐らく近年の時代劇人気も手伝ってか、人々は喜んで古代のコスプレを楽しみ、全くてらいもなく、むしろ誇らしげにツアーに参加していました。これは中国人のノリの良さも関係しており、日本では全く同じコンテンツを組むのは難しいかもしれません。もう一つ感心したのは、人々が身に着けていた衣装です。色合いや生地の風合いもよく、様になっていました。最近京都で見かける、観光客が着るレンタルの着物は定着したように思います。でも、もう少し高級感を出したり、テーマ性を設けるなど、幅広い年齢層を取り込む工夫が必要でしょう。