この夏、比較文化学科の専門科目「ワールドスタディ2」の一環で、6人の学生とともにアメリカ合衆国のニューヨーク・ワシントンを訪れました。新型コロナウィルスの流行により、海外現地研修をともなう「ワールドスタディ」は2020年度から中止されていたので、4年ぶりの開催となります。
今回の「ワールドスタディ2」の目的は、アメリカにおける暴力の記憶と移民の歴史について考えることでした。アメリカ現地研修では、このテーマに合わせ多くの記念碑を見学する計画を立てていたので、事前の集中講義でも、横須賀市久里浜にある「ペリー上陸記念碑」や金沢八景キャンパスと隣接する金沢区柳町の「母子像」などを見学し、記念碑と人びとの記憶の関係について考えました。
8月31日から9月7日まで、7泊8日で実施したアメリカの旅は、コロナ後はじめての海外経験として学生たちに強い印象を残したようです。ワシントンでは主に戦争関連の記念碑やアーリントン国立墓地(正確にはヴァージニア州に立地)などを見て回りましたが、建国から現在まで絶え間なく戦争を行い、軍隊や兵士、戦没者の存在が極めて身近なアメリカ社会のあり様、巨大な記念碑に込められた人びとの歴史認識や「アメリカ的価値」への愛着など、現地を訪れることではじめて実感できることが多々あったように思います。暴力の痕跡ということでは、ニューヨークの同時多発テロ跡地の記念碑も見学しましたが、その場で起きた出来事から連鎖的に生じたアメリカの戦争とさらに巨大な暴力を人びとはどう記憶していくのか。学生とともにしばし、たたずんで考えました。

アーリントンの「海兵隊戦争記念碑」の前で
ニューヨーク同時多発テロ「グラウンド・ゼロ」の記念碑

そのニューヨークでは、19世紀から現代にいたる移民の歴史の痕跡を探して歩きました。(余談ですが、今回のアメリカ研修、文字通り歩き通しで、学生の万歩計が一日3万歩近くを示したこともありました。)自由の女神が建つリバティー島と、かつて移民の入国審査施設があったエリス島の国立移民博物館、移民が多く住んだロワーマンハッタンで彼らの集合住宅内部を見学できるテネメント博物館、それにチャイナタウンといったあたりが、現地研修のメインでした。大西洋を越えてヨーロッパからやって来る移住者がニューヨークで織りなした活気ある生活は、「移民の国」アメリカの歴史の中で、最も語られることが多い部分です。実際のアメリカには、移民の入国を規制・管理し、時には排除・差別してきた歴史もあり、ヨーロッパ以外からの移民に対しては特に排他的な顔を見せることがあるため、今回の体験だけで「移民国家」アメリカを論じるのは危ういのですが、遠く海を越えて新たな土地にたどり着き、希望と不安・孤独に引き裂かれそうになりながら生きた人々の経験に想いを馳せることは、貴重な経験だったのではないかと思います。
とはいえ、ワシントンもニューヨークも、街を歩くだけで興味深いものや刺激的な風景が五感に触れてくる場所です。普段とは異なる環境と文化に身を置き、その場の空気を吸うこと自体が、学生にとってかけがえのない出来事なのだと感じられ、今後もこうした機会を提供し続けることが、国際文化学部の大きな役割の一つなのだなと再認識した次第です。

ワシントンのリンカン記念堂内部
ニューヨークの国立移民博物館内部